『聞』にある『耳』は出るか出ないか?−その3

さて、前々回では「『聞』の『耳』は出ても出なくても構わない」と結論付けた訳だが、
これは基本的に『常用漢字』について言及したものである。


この時問題になったのは、
小学校での漢字の字形指導の拠り所をどこに置いているか
ということで、筆者は『常用漢字表(付)字体についての解説』をもってその拠り所とし、それをもって諸関係に再考を求めた。


だがこの後、手元にある諸資料を検討した結果、小学校で教わる漢字、いわゆる教育漢字については、『小学校学習指導要領―平成10年12月 付学校教育法施行規則(抄)*1にある『学年別漢字配当表』の字体を“標準”として漢字の指導をする(『小学校学習指導要領』p.16)、ということがわかった。
故に、教育教材メーカーは『文部科学省検定済のすべての教科書や資料、『チャレンジ小学漢字辞典』を参考にしながら、標準的な字形指導を行』い、元記事(「聞」の漢字を書くとき、耳、はみでていますか? - OhmyNews:オーマイニュース “市民みんなが記者だ”)のご子息の『聞』は「減点」となる。


という訳で、現状の小学校においては『聞』にある『耳』は出ない、のがあくまで“標準”となり、それ以外の字体は減点対象となるようだ。


しかし、『小学校学習指導要領解説 国語編』p.140および『小学校指導書〈国語編〉』p.127では、

しかし、この「標準」とは、字体に対する一つの手がかりを示すものであり、これ以外を誤りとするものではない。児童の書く文字を評価する場合には、活字のデザイン上の差異なども考慮し、柔軟な指導を行うことが望ましい。

と書かれている。
これを踏まえると、元記事のご子息の『聞』は「正解」としてよい、と捉えることが可能だ。


そしてまだ問題が三つある。
一つは『常用漢字表』では『明朝体』で漢字を例示し(『明朝体』で例示しているのはあくまで例であるが)、『学年別漢字配当表』(いわゆる教育漢字)では『教科書体』で漢字を例示していること自体の問題である。いわゆる教育漢字は常用漢字に含まれているので、こちらでは『明朝体』、あちらでは『教科書体』と例示書体が異なるのは混乱の元ではないだろうか(『明朝体』と『教科書体』の字体が同じであれば問題ではないが、実際は異なる部分が多い)。
二つめは、『常用漢字表』は「目安」で、『学年別漢字配当表』では例示字体は「標準」であることである。表現が異なることで混乱の恐れも考えられ、また私見であるが、言葉のニュアンスとして「目安」よりも「標準」の方が拘束力が強く感じられないだろうか?
三つめは、中学校および高校では小学校のように『学年別漢字配当表』がないので、中学校および高校で教わる漢字字体の「標準」はどれになるのか?(『常用漢字表』がそれに?)


ただ、、前回の記事でいただいたブクマコメントでも言われたように、解答を柔軟にするとまた別の問題が出てくる可能性があるゆえ、一つの「標準」を定めてそれ以外は「減点」という方法で対処しようということも十分理解できるし、かといって、やはり柔軟な対応をお願いしたいという気持ちも中々捨てきれないものがある。


これ以上は筆者の埒外になるので、取り敢えずこの問題についてはここで終わりにする。


次回からは、活字体自体の問題として、なぜ『明朝体』の『聞』の字体で『耳』の5画目が出るものがあるのか、また、『教科書体』制定時になぜ『聞』にある『耳』の5画目が出ないものを採用したのか、という見地から『教科書体』と『明朝体』における『聞』の字体について検討して行く予定である。