《学問的分野における定義》ー字体の諸定義についてーその2
目次
- 分野別でみた字体の定義
- 各種辞書における定義
- 学術的分野における定義
- 書道における定義
- 政策的分野における定義
- 国語行政における定義
- 工業規格における定義
- 印刷関連分野における定義
- webで見られる定義
- 「字体」という語の歴史的経緯
- 諸外国語(主に英語)における、「字体」に類する語について
学術的な定義
- 個々人の脳裏にある、字の形を抽象化した骨組みであり、社会的な約束によって成り立っている字画の構成の概念である。これは、今日では基本的には楷書体が元になっていると考えられる。
『現代日本の異体字―漢字環境学序説 (国立国語研究所プロジェクト選書)』笹原宏之+横山詔一+エリク・ロング 著 三省堂 2003/11/10第1刷 「第1章 異体字とはー1.1異体字とは」p.8(笹原宏之)
- その文字(引用者註:「現実に紙や画面の上に印字・表示された文字」のこと)の骨組みに関する抽象的な概念を指す。
『現代日本の異体字―漢字環境学序説 (国立国語研究所プロジェクト選書)』笹原宏之+横山詔一+エリク・ロング 著 三省堂 2003/11/10第1刷 「第3章 異体字の認知科学ー3.1字体認知とカテゴリー化」p.205(横山詔一)
- 字の形の標準的な観念。
『文字・表記探究法 (シリーズ日本語探究法)』小池清治 編 犬飼隆 著 朝倉書店 2002/08 p.35
- 一般的には文字を形態要素的に分類して、個別に他の文字ごとに区別されるべき特徴を有することにより規定される字の弁別指標のことをいう。あくまで抽象的概念下に存在するものである。
『表外漢字字体表を考える一国際戦略としての文化基盤の整備に向けて一』相田満 著 「Science of Humanity』30(勉誠出版)2001/03掲載一部改稿PDF
- 漢字の骨組み。
- 字体とは文字を読むプロセスによって具体的な字形からその文字を識別するために必要な特徴を抽出したものである。字体だけを可視的に示すことはできない。
- 文字を形態要素的に分類して、個別に他の文字ごとに区別されるべき特徴を有することにより規定される字の弁別指標。
- 抽象的概念下に存在するもの。
『定例懇談会 NO.13』 1996/07/15(国文学研究資料館website)
- 筆画の組み合わせから成るそれぞれの文字の骨格の形態である。
『漢字と国語問題 (漢字講座 11)』 佐藤喜代治 編 明治書院 1989 p.32(加藤正信氏)
- 文字の骨格表現である。その文字が文字として認知されるために必要な点や線の配置と構成である。「涙」と「汨」は字体の違いである。
『漢字と国語問題 (漢字講座 11)』 佐藤喜代治 編 明治書院 1989 p.236(田嶋一夫氏)
- 書体内に於て存在する一々の漢字の社会共通の基準。
『図書寮本日本書紀研究篇』石塚晴通 著 汲古書院 1984 p.11
【『キリシタン文献における字体・字形の認識について──落葉集を例として──』白井純 著(PDF)からの孫引き】
- 具体的に筆記具を用いて物の面に書いたり彫ったりした痕跡を字形として区別するならば、音韻と音声との区別における音韻に擬せられるのが字体である。すなわち、字形が現実的・個別的な、その都度多少の差の生ずる現象であるのに対して、字体は、抽象的普遍的で社会的に一定している観念…。
『国語学大辞典』国語学会 東京堂出版 1980
【『手書き文字研究の基礎に関する諸考察』押木秀樹 著(website)からの孫引き】
以上から共通項として、「字体」の定義に関して重要な語彙が見いだされる。
それは、「字体」とは『抽象的な概念/観念』である、ということ。
また、上記に列挙した「字体」の諸定義に関しては、大概以下の3つのグループに分類できる。
- 骨組み・骨格
- 弁別指標
- 社会共通の基準