『聞』にある『耳』は出るか出ないか?
※註)本文中に、特定の教育に携わる関係の名称が出ているが、元ソースを踏まえたために敢えて例として出しているのみであることを断っておく。
『オーマイニュース』に
「聞」の漢字を書くとき、耳、はみでていますか? - OhmyNews:オーマイニュース “市民みんなが記者だ”
というエントリーがあったので、これについてちょっと検証してみようと思う。
というのは、小学校の頃、『女』の「ノ」を「一」から出してバツをもらった*1苦い経験を思い出したので。
結論から先に言うと、
『聞』の『耳』は出ても出なくても構わない。
その理由は、
『常用漢字表(付)字体についての解説』「第1 明朝体活字のデザインについて」の「2 点画の組合せ方について」にある
「(4)交わるか、交わらないかに関する例」(文化庁国語施策情報システムより)に、
『耳』が出ている『聴』と出ていない『聴』が例示されており、『耳』が出るか出ないかは
現在,一般に使用されている各種の明朝体活字(写真植字を含む。)には,同じ字でありながら,微細なところで形の相違の見られるものがある。しかし,それらの相違は,いずれも活字設計上の表現の差,すなわち,デザインの違いに属する事柄であつて,字体の違いではないと考えられるものである。つまり,それらの相違は,字体の上からは全く問題にする必要のないものである。
『常用漢字表(付)字体についての解説』「第1 明朝体活字のデザインについて」の前書き より
ということで、どちらでもよい、ということになっている。
これは、『聞』についても同様のことが言えるはずである。
ただ日本の活字体のほとんどは、『聞』の『耳』は出ない書体設計である(教科書体も含めて)。
(因みに、中国語の活字体では『聞』の『耳』は出ているものが多い。例は敢えて挙げないが。)
故に、進研ゼミが『家庭教育『?』解決-進研ゼミ小学講座』にある、
文部科学省検定済のすべての教科書や資料、『チャレンジ小学漢字辞典』を参考にしながら、標準的な字形指導を行っております。
というように印刷物を参考資料としてしまうと、『聞』は出ないのが正しくなってしまうのである。
本来は、活字体と筆写体との間には様々な相違点があるので、
これら資料にある活字体をそのまま筆写体の規範にすべきではない。
ただ今回の場合、進研ゼミは上記引用を踏まえると、
進研ゼミはそれらの資料ではなく、まず先に『常用漢字表(付)字体についての解説』を考慮すべきだったと思う。
進研ゼミおよび他の教育に携わる関係には、是非とも再考をお願いしたい。
ただ、この問題は進研ゼミおよび他の教育に携わる関係だけに責任がある訳ではなく、
文部科学省および文化庁がもっと『常用漢字表(付)字体についての解説』について
現場の教師や教育教材メーカーなど*2に周知徹底させるべきだったし、今からでもすべきである。
現在、常用漢字表の見直し作業が行われているので、
この機会に『常用漢字表(付)字体についての解説』についても、
より周知徹底させたり、例えば例示を全ての常用漢字について挙げるなどの
方策を議論してもらえればこの上ないのだが。
*1:『女』の「ノ」が「一」から出る出ないについても、本文にて挙げた『常用漢字表(付)字体についての解説』に例が載っていて、この場合もどちらでもよい。
*2:因みに、『大漢和辞典』を発行している大修館書店WEBSITEの『漢字文化資料館』には「漢字Q & Aコーナー」があって、そこには
・「茸」という字の「耳」の部分で、左下からやや右上へと書く横棒は、右側の縦棒の先まで突き出るのですか?
・「耳」の5画目、一番下の横線は、右に突き出るのですか、突き出ないのですか?
という質問と、その回答がある。しかしその回答を読むと、大修館書店としても回答に苦心している雰囲気を醸し出している。