「大文字のß」の概説

深夜twitterを眺めていたら「Capital Sharp S」という記事を見つけた。これは何だ、とリンク先をクリックしたら「大文字のß」についての記事だった。
「大文字のß」の存在は、「エスツェット」などと名乗っている手前知ってはいたが、由来などは気にかけて来なかった。
今回は拙い英語力で、主に『Capital Sharp S – Germany’s new character | Ralf Herrmann’s Typography Weblog』を解読しながら、ざっくりとした概略を解説することにする。
詳細を知りたい方は、下記の「参考文献」をどうぞ。

はじめに

2008年4月4日にUnicode 5.1が公開された際に「大文字のß」は「U+1E9E LATIN CAPITAL LETTER SHARP S」として登録された。
元々「小文字のß」はあって普通に使われていたが、「大文字のß」は、それまでのドイツ語表記法とドイツ語自体の特徴により、ある時期までは必要とされなかった。

ドイツ語表記法とドイツ語自体の特徴

大体第二次大戦終了まで、ドイツ語はblackletter(俗にドイツ文字)で表記されることが多く、且つ語頭は大文字で他は小文字で組み、現代のように大文字のみまたはsmall capsで組むというような組み方はしなかった。
またドイツ語自体の特徴として、文章の最初または名詞の語頭は必ず大文字にするが、語頭に「ß」が立つことは決して無かった(今もない)。
それ故、「大文字のß」は単純に必要がなかったのである。

「大文字のß」の必要性の議論と代用綴り

現在ではドイツ語はblackletter(俗にドイツ文字)で組むことは無く、ローマン体などで組まれ、また頻繁に大文字のみまたはsmall capsでも組まれることが多い。故に「大文字のß」の必要性が出てくることになる。
1903年に、ドイツ・オーストリア・スイスの印刷業者と活字鋳造業者のとある委員会でblackletter以外の書体にも「ß」が必要であると宣言した際に「大文字のß」についても協議されたが、字形が決まらないままであったため、大文字で組んだ文章では「ß」は「SS」または「SZ」で代用されるのが習慣となった。
その後も、度々「大文字のß」を使用した実例が出てくるのだが、大きな話題になることも無く、今も「SS」で代用されることが続いている。


「大文字のß」の必要性の一番の理由は、1996年7月に改正されたドイツ語の正書法にある。
それまで「ß」の使用は慣習のままであったが、この改正では一つの新たな使用法が「ß」に与えられ、「ss」との住み分けが明確に行われた。
その住み分けとは、「ß」は直前に来る母音が長母音になる場合に、「ss」は直前に来る母音が短母音になる場合に夫々用いられることを厳密にしたことである。そのため、これまで「ß」を用いていた「Kuß」(英:kiss)は元々発音が[kús]のため「Kuss」となり、「Fuß」(英:foot)の発音は[fúːs]のため「ß」のままである。
この明確な発音の住み分けのため、大文字で「Fuß」を表記したい場合、従来のように「ß」を「ss」で代用して「FUSS」をした場合、発音が[fúːs]ではなく[fús]と短母音化した表記となるという問題が出てくるだけでなく、「Masse」(英:weight)「Maße」(英:measures)のように別語が両方とも「MASSE」となり語句の区別が出来なくなる問題も出てくる。


ただ、スイスでは正書法として既に「ß」を使用しておらず、すべて「SS」「ss」と綴るので、上記の問題はどうしているのか、そしてそもそもの「ß」の成立の由来、などはまた別のお話。


追伸:『Capital Sharp S – Germany’s new character | Ralf Herrmann’s Typography Weblog』中の画像(A design for a capital Eszett by the font foundry “Schelter & Giesecke” (Hauptprobe 1912))内の「Ö」「Ü」のウムラウトの位置が面白い。

「ß」の由来を知りたいという方は、以下をご覧あれ